ごきげんよう、えぞしまです。



神保町の東京堂で、
偶然いい感じの本を見つけてしまいました。
いや〜私ってどうして面白い本と出会うのがうまいんだろう?






60年代の飯倉片町。
まだ、イタリア料理が珍しかったころ。
一軒のイタリア料理レストランが開店しました。

そのお店には、
三島由紀夫、安部公房、黒澤明。
岡本太郎に小澤征爾。
加賀まりこ、かまやつひろし、松任谷由実…。
その頃は若かったけど、きらめく才能を持った人たちが多く集いました。

そのお店の中心にいたのは、
お店のオーナー、川添浩史と梶子。

この2人を中心に、
伝説のイタリア料理レストランにまつわるエピソードを集めたのがこの本です。


もとはといえば、
「夜遅くまで遊ぶ場所が欲しいから」という呆れるような理由で、
そのお店は誕生したわけですが、
そこはやはり教養豊かな国際人。
イタリア料理屋をただの水商売にはいたしません。


自分は、東西の文化交流の橋渡し役になる。
それがお店の雰囲気にも表れていました。

だからこそ、
様々な才能が集い、交流していく、
素敵なサロンを作り上げたのだと思います。

一見、お金持ちの道楽のように見えますが、
辛く悲しいエピソードもあり……。
ただ楽しいだけでは終わらない、
一筋縄ではいかない苦労がそこにはあります。


そのお店の名はキャンティ。
現在も飯倉片町に老舗レストランとして営業を続けています。


当時は気味が悪いと言われたスパゲティバジリコも健在。


しかし、
あの60年代の、サロン的な雰囲気が今もあるかはわかりません。

不景気の波が世間を襲い、
新しい風が吹き渡ったキャンティは、
今はどんな空間になっているのだろう?


タイムスリップして、
開店当時のキャンティでお食事してみたい……。


ところで、
お店のオーナーである川添夫妻。
2人とも、とても気になる人物です。

川添浩史は、華族の生まれで、
庶民とは明らかに違う空気を纏っていたといいます。
育ちがよく、人に指示するときも丁寧。
若い頃から国際的な教養と振る舞いを身につけた人物です。

梶子(タンタン)もとても魅力。
語学堪能で教養があり、顔の作りだけではない本当の美しさを持つ人。
でもでも、とっても苦労人なの!!!
ということは、人の痛みや悲しみのわかる人ってことだよね。

初めて出会った浩史の連れ子に、
「お母さんと呼ぶことないのよ。私、お母さんじゃないから。そうね、タンタンと呼んで」
と言ったのも、タンタンらしい気遣いを感じます。


タンタンのエピソードは満載で、
人となりの断片を聞くだけで「お会いしてみたいっ」と思ってしまう。
安井かずみのタンタンとの思い出は、本当にすてき。
大人になるために、背伸びするために、
タンタンに一生懸命についていく。
いま、こういった「背伸びする」「大人になろうとする」というのがなくなってしまった。
ああ、つまらないな。だから反教養主義ってキライなの。


加賀まりこのエピソードもとてもすてきです。
こちらはタンタンというより、浩史との思い出。
負けん気の強い女の子が将来に悩んで、
決心してフランスへ1人飛び立つ。
もうね、これだけで映画になりそうです。


他にも、キャンティをよく知る人たちが、
キャンティと川添夫妻についてエピソードを紹介してくれます。
それがそのまま日本の戦後芸能史になりそうなくらい。


当時のキャンティはないかもしれないけれど、
こうしてみんなの心の中にすてきな場所があって、
今も残り続けているという奇跡を感じるね。


今やイタリア料理なんて、どこでもお手軽に食べられるし、
キャンティより豪華で趣味が良くて味も上なんて、珍しくもなくなったんだろうけど。

こういった歴史と背景があって、
それも一緒に味わえるというのは、
他にはない特徴です。


いつかキャンティでお食事するときのために、
当時の空気を感じておいてもらいたいところです。