ごきげんよう、えぞしまです。



鎌倉の古本屋さんで、
すてきな本を見つけました。
キンドル版だと入手しやすいかも?


もめん随筆 (中公文庫)
森田 たま
中央公論新社
2008-02




森田たまは北海道出身の作家です。
明治時代の人ですが、
随筆を読むと結構時代を先取りした、
新しい考え方を持つ人だったようです。

この『もめん随筆』には、
たわいのない日常描写のなかに、
筆者のするどい視線のようなものを時々感じます。

普通なら「モヤモヤ」をそのままにしちゃうけど、
やはり言葉に長けている人は、
それを丁寧に言語化していく。

その巧みさを見たくて、
私は本を読んでしまうんです。


森田たまは、
きっと今よりもずっと、
女性にとって生きづらかったであろう明治時代で、
そのモヤモヤを書き残しておいてくれています。
そして令和時代に読むことができる!


ちょっと抜粋してみます。

『人妻』
筆者は大阪にも住んでいたのですが、
大阪での奥様の扱われ方は、
よくこの随筆に出てきます。
そのうちのひとつがこれ。
夫と出かけると、いつも旦那さんが大切に扱われる。
夫が手を出しているのに、
下足番は合鍵を、女中さんは手荷物を、
筆者に押し付けてくる。
夫のほうが先に席についたのでお茶を汲んでいると、
女中さんが笑い出す…といった感じ。
家の中でも外でも、
大阪の奥さんはこんな待遇を受けているのか、
とよく憤っていたようです。
(もちろん今は違うでしょうが…)

この話、最後はものすごく皮肉がきいていて、
おもわずドキリ。
男性陣はヒヤリとしそうですね。お読みなさい。


『奈若』
内田百閒のエピソード。
彼からもらった手紙を読むと、「ナイフ」を「奈若」と書いている。
「奈」はわかるが、「若」で「イフ」と読むのは何故?
家族みんなで考えたが、その理由が全くわからない。
その後答えをひらめくのですが、
勘の鈍い人相手では、内田百閒のような文豪でもお気の毒…
という話。
ここで紹介されている百鬼園書簡集なるものは、
結局出版されています。


『故郷をさがす』
自分のふるさとはどこにある?
森田たまは札幌出身だけれど、
すでに身寄りもいないし、あまり故郷とは感じていなかったようです。
子どもは東京生まれで、東京のほうが長いのに、
すっかり大阪を故郷と感じているし、
夫は間違いなく大阪の人です。

当時北海道に住む人は、
内地からやってきた人が多いですから、
北海道を故郷と思う人はあまりいないようで、
「成功したら内地に戻る」とすら考えていたようですね。
内地はとても良いところなのに、
筆者にとってはそれもまた、故郷とは感じにくい場所でした。

北海道民あるあるですが、
日本史の話をされても実感がわかないんですよね~。
天皇の墓所があって、お寺があって神社があって、
ここでは武士が、あっちでは公家が…
なんてされても、おとぎ話のようなもの。
関西の人は、身近に古墳やら何やらありますし、
京都の人なんかは普段歩いている道が歴史の舞台なわけだから、
そんな人達と感じ方は同じはずはないでしょう。

森田たまは、
「それならいっそロシア人の暮らしのほうが近い」
と書いています。
どこまでも青い空、ポプラ、楡、白樺の樹があって、
キャベツのスープにパン、きゅうりにポテトが並んでいる。
ハムがぶら下がっている台所で、母が作るラズベリージャム。
牛乳とバター、そしてホップの香り…。

明治時代ですら、こんな日本があったわけです。
これじゃ内地を故郷とは思えないですね。
いつかどこかに自分の松杉を植えるのだろうか…
と思慕するという話です。


『女の紋章』
明治時代のきものに関する随筆…といえば、
幸田文『きもの』がありますが…。


きもの (新潮文庫)
幸田 文
新潮社
1996-11-29



この森田たまの『女の紋章』も捨てがたいと思います。
当時の札幌では、浴衣地の洋服を着ていた人もいました。
ひだの多い服を着て、アカシヤ並木の下を歩く様子は、
内地の人からすれば映画のようで珍しかったかもしれません。

服の話って、なんでこんなに楽しいんだろう。


『柳は風の吹くままに』
これもまた男性陣はヒヤリ系の話。
今も昔も男性は身勝手なようです。
踊りや長唄の上手なきれいな人を嫁さんにほしい!
でも芸者さんは嫌だという、
勝手な男性の話が書かれています。
「横暴だ」と感じつつも、
しっかり馬鹿にしているところが抜け目ない!


『伊勢の春』
夫婦で故郷が違うので、
お正月のお雑煮はどっちで作るか、という話。

北海道は澄まし、鶏肉やごぼう、かまぼこなどを入れて、
角餅を使います。
関西は白味噌仕立て、大根人参、丸餅に花鰹も添えます。

北海道は大晦日、
親戚が集まって大宴会です。
そう、北海道の大晦日はすでにお正月なのです!
大晦日は静かに過ごすつもりだった夫に、
「お正月のごちそうがないなんて」と言って、
北海道のお正月を展開していきます。

東京で丸餅は手に入りにくいこともあり、
完全に気圧されている関西流のお正月。
でも、元日は白味噌二日目は澄まし、
という具合に、ちゃんと関西のお雑煮も作っていたようです。

さて、
伊勢で元日を迎えた年のこと。
宿で出たお雑煮が、あまりにもおいしくて、
それきり鶏肉とか白味噌とか、どうでもよくなってしまった。
というオチがあります。
伊勢のお雑煮が一番シンプルなのにね。



『ブロンズの脚』
女子学生の得点を下げるという、大学入試の不正がありましたが、
なんだかそれを彷彿とさせるようなさせないような話。
これが書かれたときからかなり経っているけれど、
全然変わってないな~という印象。




なかなかハイカラで進歩的な女性だった森田たま。
解説を担当した市川慎子は、
森田たまのことを「ちょっと洒落た明治の叔母さん」と評しています。

気負ったりせずに、遊びに行くような気分で、
読んでもらいたい随筆です。