ごきげんよう、えぞしまです。


妖艶な目元に引き込まれて、
よく知らないのに表紙買いしてしまいました。
実は初めての岡本綺堂です。


玉藻の前 (中公文庫 (お78-8))
岡本 綺堂
中央公論新社
2019-05-23



九尾の狐・玉藻御前でおなじみの『殺生石伝説』を題材にした、
長篇伝奇小説となっております。


玉藻の前って、
いろんなところでモチーフに使われていていますね。

かつては天竺で華陽夫人となって班足太子を、
あるいは古代中国・殷で妲己となって紂王を、
その後日本にやってきて、これまた宮中に出入りし、
権力のある男性をたぶらかす…という妖艶な美女です。

取り憑かれた男性は妙に派手や享楽を好むようになり、
政治がどんどん傾いていきます。
さらに、囚人をなぶり殺しにするような悪趣味な遊びに耽り、
もう国内はめちゃくちゃになっていきます。

なんでわざわざそんなことするの?
って感じですが…。
なにせ妖怪ですし、人間とは楽しいことも違うだろうし、
玉藻の前の楽しいことをやるためには、
権力のある人(今も昔も男性しかいない)をたぶらかして、
取り憑くのが手っ取り早い、ということでしょうか。


玉藻の前をモチーフにしたキャラクターたちは、
狐耳のついたかわいい女の子になっていることが多いようですが、
もともとは何を考えているのかわからない、
思いつくことは贅沢享楽もしくは残虐非道なことで、
とにかく人間の理屈では説明できないような美女なんですね。


岡本綺堂の玉藻は、
幼なじみの千枝松を登場させたことで、
少し人間味のある魅力的なキャラクターにまとまっています。

ともに野に遊び、
いきいきと過ごしてきた玉藻と千枝松。

玉藻は殿上人のもとに、
千枝松は陰陽師のもとに弟子入りし、
二人の間には深い溝が…。

千枝松は、
周りの人々に「玉藻はヤバイ」と言われるのだけれど、
そしてそれは自分でもよくわかっているんだけど、
玉藻のことが愛しくて割り切ることができない、
と苦しみます。

玉藻は、殿上人や僧侶の権力闘争に係わり、
相変わらず権力のある男性をたぶらかしているのだけれど、
千枝松のことだけは忘れない。

結局、千枝松の師匠の手によって、
玉藻は殺生石に変えられてしまいます。

最後の逢瀬での玉藻は、
傾国の美女というよりは一人の恋する女性といった感じ。

千枝松もそれを追うように消えていくのだけれど、
二人は添い遂げたのか、どうなったのかはわからず。
しかし悲恋で終わっただろうな、というラスト。


わけのわからん美女玉藻御前もいいけれど、
あまりにも突飛すぎて、感情移入しづらいんだよね。


岡本綺堂の玉藻前は、
その点詩的にまとまっていていいですね。


まぁ最後は、
玉藻の前に関わった人たちは、
乱に巻き込まれて悲惨な死を遂げるんですが…。
最後はしっかり妖怪っぽいことしてて、
「あ、やっぱりこわ~い」な幕切れです。
伝奇小説ならこうでないとね。


あまりホラーって読まなかったけど、
伝奇小説って結構いいなぁ。
岡本綺堂、もっと読んでみようかな。


ちなみに私が読んだ中公文庫版は、
山本タカトの表紙・口絵つき、
挿絵は井川洗厓となっております。
夏の宵にいかがですか。