ごきげんよう、えぞしまです。

大人気ファンタジー『十二国記』シリーズの、
最新刊が2019年に刊行されるということで、
「十二国記マラソン」と称してシリーズを読み返すということをやっています。
ひとりで。



今回は、
シリーズ中最も新しい作品となる、
『丕緒の鳥』を読んでみました。
実はえぞしま、この作品についてはまだ読んだことがありませんでした。
なので、これは読み返すのではなく、初読みとなります。



こちら短編集となっております。

主人公は、
十二国記の世界を裏で支える人たち。

これまでのように、
国王やら麒麟やら官吏やら、いわゆる雲の上の人たちの話ではありません。

十二国記の世界で暮らし、
その壮大な物語を紡ぐピースに焦点を当てています。



丕緒の鳥 ~工芸品に魂を込める職人~

丕緒は、慶国の冬官。
大射という儀式で使う、鵲(かささぎ)のモチーフを作る職人です。
大射とは、腕のいい弓師に弓を引かせ、陶器でできた鵲を射る。
すると、鵲が割れて香が漂い音が鳴り、その音で楽曲も奏でることがある…という儀式です。

もうこの儀式の設定だけで、ひきこまれるでしょ?

そしてこの話の主人公は、
この陶鵲をどう作るか、
そしてどんな意味を込めるか、
思い悩む職人・丕緒です。

馴染みの同僚である蕭蘭は、予王による女性追放の令により、ある日突然姿を消してしまいます。
蕭蘭がいなくなってから、工房から足が遠ざかっていた丕緒。

蕭蘭が、陶鵲に込めた思いはなんだったのか。
その思いを汲み取りながら、丕緒は陶鵲を完成させます。

大射は成功。
丕緒は、登極したばかりの景王(陽子)から直々に呼ばれます。


丕緒は、もう100年くらい前から仕えています。
これまでの女王のことも知っている。
だから、褒め言葉はあまり期待していなかったようです。

実際、
思いを込めて陶鵲を作ったとき、
予王に「傷ついた!」と言われましたし。

そんな丕緒に、
陽子は御簾越しに、
「胸が痛むほど、美しかった」
と伝えます。

そして、
「御簾など無しに、あなたと2人で見たかった」とも。

その言葉を聞いて、
丕緒は官を辞することを思い直し、
矢をかわして女王陽子のもとへ飛び立つ陶鵲を思い浮かべます。

鵲は、民そのもの。
それを大射の儀式で射ることの意味。
そして、その鵲が女王陽子のもとへ侍る。

架空の儀式に、
これだけの意味を込められる想像力に感嘆してしまう作品です。



落照の獄 ~死刑制度について問う~

柳国の秋官である瑛庚。
いわゆる司法を司る、裁判官のような仕事をしています。
今抱えている案件は、極悪人である狩獺の処遇について。

長年の治世を誇る柳国では、死罪を用いることなく国の平安を保ち続けてきました。
しかしここに来て、柳王が政治に興味をなくし始め、国が傾き始めます。
その影響なのか、狩獺のような犯罪者も出てしまいました。

彼は、まさに「息をするように殺す」人物。
「あ、ちょっと困るな」と感じたらあっさり殺人に手を染めるのです。
前科は3度、23人もの人を殺していました。
以前捕縛された時に、刑に服していたこともあるのですが、反省や後悔は全くない様子。
解放されてからまた犯罪を繰り返し、罪を重ねてきたのです。

官吏たちは、「死罪はまかりならぬ」と主張。
しかし国民の感情や被害者の気持ちを考えると、死罪以外にはありえない。
国王は、全て任せると言って丸投げ。
国が傾きつつある中で、死罪を復活させてもよいのか、
刑に服することが本当に反省に繋がるのか、
瑛庚と秋官たちは議論に議論を重ねます。

死罪と刑罰、人が人を裁くことについての、
あらゆる議論が出尽くしたところで、
瑛庚らは狩獺がいる牢へと赴き、直接面会することになります。


果たして瑛庚の決断は……。


その結果を聞き、高笑いする狩獺と、
どんな結果であれきっと敗北したであろう瑛庚。
ファンタジー小説でありながら、社会派小説のようでもあり、
多面的な表情を持つ作品となっています。



青条の蘭 ~使命を背負って走る~

尚隆が登極する前の雁国。
王は長いこと不在、国は荒れ果てていました。
漂仲は、各地の珍しい植物を王に献上し、
卵果を実らせてもらう迹人という仕事についていました。
彼の幼なじみ包荒は、国有の山々を管理する山師でした。
幼いころから山を愛し、植物の一本一本まで熟知する包荒にとって、
山師は天職のようなものでした。


ある日、包荒は北部の山で、
石化したブナの木を見つけます。

そのブナの木は枯れているわけではなく、
何らかの病気にかかっていると見抜く包荒。

一方、使い途のないブナの木は、
石化することで炭の代用となるため、
次々と伐採されるようになります。

ブナの木が山崩れを防ぎ、
ほかの生命を育むことをわかっていた包荒。
何とかして、ブナの石化を止められないか試みます。

漂仲と包荒は特効薬を探しますが、
時間ばかりが進み、思うように捗りません。

そこで包荒が連れてきた助っ人が興慶でした。

興慶は、猟木師。
浮民であり各地の珍しい植物を集める者たちを、そのように呼びます。
官として植物収集にあたる迹人とは、敵対する関係です。
迹人である漂仲は身構えましたが、興慶は包荒を信頼していたこともあり、
頼もしい協力者となってくれました。

興慶のアドバイスもあって、
青条という植物が特効薬になると突き止めた3人。
しかし、青条は育てるのが困難で、
人の手で増やすことはできませんでした。


ちょうどその頃、新王が登極。
こうなれば、
王に青条を献上し、卵果が実るように取り計らってもらうしかない。


この事実に至るまでに、
あちこちで山崩れが発生し、
里ごとなくなってしまう事故が多発します。
漂仲の家族や親戚も飲み込まれてしまいました。

もう、時間がないのです。

何とかして、官吏を呼び寄せ、
中央に青条を運んでもらおうとしますが、
最悪なトラブルが発生し、
興慶は官吏を殺してしまいます。

漂仲と包荒は、
興慶に小金を持たせて国外へ逃がします。
包荒は、残った青条を守らなければならない。

青条は、簡単に枯れてしまう。
漂仲が、王宮まで運ぶしかない。

寝る時間も惜しんで、
あらゆる人に助けられながら青条を運ぶ漂仲。


短編でありながら、
燃え尽きるように役割を果たそうとする漂仲の思いが、
ロードムービーのような壮大なスケールで語られています。

その後、漂仲はどうなったのか。
今の雁を見れば、なんとなくわかります。



風信 ~俗世から離れて追究する者たち~

慶国では、女性を国外へ追放するという令が出されたものの、
蓮花が暮らす町では女性は身をひそめるようにして、相変わらず生活していました。
ところが、命令に背く者ありという噂を聞きつけたのか、
兵士に襲撃され、蓮花は母と妹を失います。

町の人たちと国外へ逃亡しようとしますが、
逗留先で幼なじみの親友が身投げ。
蓮花は、家族も友も失い、天涯孤独の身となりました。

ついに景王が崩御。
命令が解かれ、町の人たちは故郷に帰り始めますが、
蓮花には故郷に帰る意味はもうないのです。

蓮花はそのまま、
逗留先の街・摂養に留まることにし、
縁あって、官吏である嘉慶のもとで働くことになりました。

嘉慶は暦を作る官吏でした。
ともに住み込みで働く部下たちは、
レンズで空気を観察したり、
蝉の抜け殻を集めたり、
山積みの資料を漁っていたり、
何だか浮世離れした人たちでした。

ちょっと変わった人たちですが、
嘉慶は鷹揚な人柄で、部下たちも優しく、
蓮花は穏やかな日々を過ごしていました。

ようやく新王が立ち、
生活も安定してくるだろうと思っていた矢先、
偽王の噂が立ち始めます。

きな臭い雰囲気が漂っていても、
嘉慶や部下たちは全く興味なし。
相変わらず空気を観察して、蝉の抜け殻を集めているような生活で、
蓮花は呆れるばかり。

そんな中、
蓮花たちの住む町が新王に従わないというので、
兵士の襲撃に遭い、犠牲者が出てしまいます。

それでも浮世離れしている嘉慶たち。
現実を見ようとしない彼らの態度に、蓮花は激怒します。

しかし、
嘉慶たちは、暦を作るのが使命です。
暦を作ることしかできないのです。

例え国が傾き混乱しようとも、
いつも通りに空気を観察し、蝉の抜け殻を集め、過去の資料をひっくり返して、
それらをもとに暦を作らなければならないのです。

何か目立った動きをする人に目が行きがちですが、
世の中を地道に支え、日常を送るように努める人たちのことを忘れてはならないのです。

暦を作るものの使命を悟る蓮花。
いつしか、蓮花も暦作りのお手伝いをするようになりました。
燕が里に戻ってきたのを調査しながら、
自分の未来を思う蓮花でした。



まとめ

十二国記は、
「ある日突然、女子高生が異世界の王に!」
「実は異世界での尊い存在だった!」
みたいな、
いわゆる「雲の上の人たち」の話が多く、
そこが壮大なスケールのファンタジーたるゆえんでもあります。

しかし、
その壮大なファンタジーを支えるのは、
日々を地道に送っている民なのです。


2019年には、待望の新作が刊行されますが、
これは泰の話だと発表がありました。
ということは、泰麒や行方知れずの泰王など、
いわゆる雲の上の人たちの話になるでしょう。

その背景には、
儀式で使う小道具をどうするか悩み、
刑罰をどうするか悩み、
植物の石化を止めるべく奔走し、
何があろうと暦を作ろうとする、
十二国記の世界を支える人たちがいることを、
忘れないようにしておきたいものです。


誰だって、
自分の人生の主人公なのだから。





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