ごきげんよう、えぞしまです。


大人気ファンタジー『十二国記』シリーズの、
最新刊が2019年に刊行されるということで、
「十二国記マラソン」と称してシリーズ作品を読み返す、ということをやっています。
ひとりで。


この記事は、
シリーズの中で最も過酷、
かつ非常に重要なエピソード満載の、
『風の万里 黎明の空』の感想を書いていきます。

異世界に連れてこられたんだけど、
言葉も通じるし、なぜか女のコにちやほやされて、
そこにいるだけで評価される主人公…みたいな、
キャンディボーイ向けの異世界ファンタジーとは全然違います。

むしろ、
そういうのが好きなキャンディボーイにとっては、
読むのがツライ、過酷な物語となります。




この物語の軸になるのは、3人。
それぞれ過酷な運命に放り込まれています。



1人目は、景王陽子。
『月の影 影の海』で王に即位した陽子は、
こちらでの慣習が全くわからず、判断を求められても指示できずにいました。

十二国記の世界には、あまりジェンダーというものはありません。
しかし、慶国は暗愚な女王が続いたため、
誰もが女王である陽子のことを信用していませんでした。

おまけに、陽子は胎果。
右も左もわからない陽子は、ますます官吏の信頼を失っていました。

新王が最初に国民に出す勅令、初勅。
初勅は今後の国のあり方、新王のビジョンを反映するものですが、
この初勅すら陽子は決めかねていました。

いつも、
「私は至らない…」
「至らない王で済まない」
「私は不甲斐ない」
と、くよくよマイナス思考の陽子。

かつて、
親や先生、クラスメイトの顔色を伺っていたのと同じように、
官吏や景麒の顔色を伺ってばかりいる自分に気づきます。

その自信のなさが周囲に伝わり、
ますます人を不安、不信にさせてしまいます。

加えて、景麒が堅物なので、
ますます息がつまる。


そこで、
陽子は下界に降り、街の様子を見て、
わからないならわからないなりに学ぶことを決意します。

先王と違い、
自分の愚かさを直視し、前に進もうとする陽子の姿に、
景麒は不安ながらも望みを感じます。
景麒は、陽子の逗留先の手配を申し出るのでした。



2人目は鈴。
もともとは日本の貧農に生まれました。
年季奉公に売られる途中で蝕に巻き込まれ、
慶国に流されてしまったのです。

景麒によって神籍に入れられた陽子と違い、
鈴は全くの海客。
言葉はひとつもわかりません。
旅芸人が引き取ってくれましたが、
何しろ言葉がわからないので芸も身につけられず、
下働きをやるしかない。

そのときたまたま出会ったのが飛仙の梨耀。
仙籍に入れば、言葉で苦労することはありません。
何とか言葉が通じる人がいたため、鈴は頼み込んで仙籍に入れてもらいます。

そして、梨耀の屋敷で働くことになった鈴。
これがとんでもないブラック職場!
梨耀は何かにつけて、鈴にパワハラしまくり、
一緒に働く仲間も鈴に八つ当たり、
仕事は無理難題ばかりでした。

それでも鈴は耐えました。
何てったって明治時代の貧農の生まれ。
おしんも裸足で逃げ出す忍耐力を見せます。

100年も。

仙籍に入ると不老不死にはなりますが、
仙人にもランクがあり、鈴はその一番下。
言葉が通じ、不老不死というだけ。
そして、とにかく我慢の人。
我慢に我慢を重ねて、100年も経ってしまいました。

我慢は美徳と言うけれど、
鈴を見ているとそんなの嘘っぱちだ、と思います。
だって、何も改善しないじゃん。
そして100年も経ってるし。
これ仙だからいいけれど、普通に人間だったら悲惨じゃないですか。

「そんなの我慢しなきゃダメ」。
それは人の口を塞ぎ、考えることをやめさせる言葉。


慶に同じ年頃、しかも胎果の女王が立ったと聞き、
友だちになりたい、私たちなら同じ辛さをわかりあえるはず、と、
妄想の世界に逃避するようになります。


筋金入りの「我慢」を重ねてきた鈴でしたが、
ついに梨耀のもとを逃げ出し才王のもとへ駆け出します。

才王は鈴を匿い、梨耀の使用人は王宮で引き取ることを決めます。

鈴以外は。

鈴だけは、王宮で働くことを許されませんでした。
「もう言葉はわかるのだから、下界に降りて成長してみたら?」

鈴は「こんなに我慢してきたのになぜ!?」と爆発。
鈴にとっては、故郷に帰れない苦しみをわかってもらえないし、
これまで我慢してきたことも評価されなかった。
その上、「成長しろ」なんて言われてしまったのですから。

そこで鈴は、慶に行くことを決意。
景王に会えば友だちになれる、苦しみを分かち合えると信じ、
また精神論の世界へ身を投じます。



3人目は、祥瓊。
芳国公主、つまりお姫様です。
絹の着物に宝石の簪。宮廷にはかしずく女官たち。
両親に溺愛され、「何もしなくていい」という言葉を疑わず、
毎日遊んで暮らしていました。

しかし芳国はまさに王の治世によって傾いていました。
祥瓊の父は潔癖な人物で、国民を法で縛りあげる政治をしいていました。

子どもが腹をすかせて盗んでも死罪。
病気で寝込んで畑仕事を休んでも死罪。

世間は恐怖で包まれ、心は荒みきっていました。

そんなことはつゆ知らず、
毎日高級ニート生活を送る祥瓊。

その暮らしにピリオドを打ったのが、恵州州候・月渓でした。

眼の前で月渓に両親と芳麟を惨殺され、
祥瓊は仙籍剥奪。
一般市民として生活することになります。

育ちがよく、疑うことを知らない祥瓊。
きっと両親の言うことを素直に聞く子だったのでしょう。
それなのに、目の前で両親を殺されてしまうなんて…。

と思うのですが。

実は、祥瓊の苦しみは別のところにありました。

祥瓊は、
働きたくなかったのです!!!

毛織物の服を着て、
毎日クワを持って、這いつくばって働いている。
「こんな服着て恥ずかしい」「私が働くなんてありえない」
「私って、かわいそう」

いやいや、
両親を殺されたことを悲しんでるんじゃないんかい!

月渓を逆恨みし、民衆を逆恨みし。
果ては自分と同じ年頃の、景王のことも恨みます。
引き取ってくれた恭国でも、這いつくばって王宮の掃除をするのが耐えられず。
恭王・珠晶のアクセサリーと、騎獣を奪い取って、
祥瓊は慶へ逃げ出すのでした。




三者三様に、未熟で、
三者三様に、過酷です。



三人とも浮き世離れした環境にいたせいで、
自分の世界に閉じこもり、
負の感情が堂々巡りしているようです。

その負のループを、
自分たちなりに断ち切ろうと試みます。


陽子は、景麒が手配してくれた遠甫のもとへ逗留することに。
里の人達と交流しながら、
王としての有り様を学んでいきます。

そして、十二国記の世界の細かい設定がここで明かされます。
遠甫は蓬莱のことも少し知っているという設定で、
ときどき蓬莱の言葉も使いながら、陽子に教えを教授します。


鈴は旅の道中、清秀と出会います。
清秀は生意気だけど、とても賢い少年です。
鈴が「故郷に帰れない苦しみがわかる?」「両親に売られた辛さがわかる?」
と言われると、
「故郷が焼けて帰れない人は、この世界にもたくさんいる」
「自分だって両親は妖魔に殺された」
「故郷に帰れなくて、あちこち転々とした」
と話します。

また、鈴をいじめた梨耀についても、
「意地をはって引っ込みがつかなくなっている。かわいそう」
と言います。

自分の苦しみを陳腐なものにされた気がして、
鈴は最初反発をしますが、
哀れんでもらいたい自分、我慢しすぎて小さくなっていく自分に気づきます。


祥瓊は、なんと楽俊と遭遇。
トラブルで無一文になった祥瓊を、楽俊は手助けします。
ともに諸国を回りながら、自分の無知・愚かさや、
自分が公主としてすべきだったことをしていなかったこと、
景王も王になるために苦労していたことに気づきます。



三人はそれぞれ自分の道を歩みながら、
いよいよ慶に到達。
そして和州の乱に巻き込まれながら、
いよいよ邂逅するのです。


三人がどのように成長を遂げ、
和州の乱を平定したのか。
そして、陽子は初勅を何にしたのか、
『十二国記』シリーズ中最も過酷でありながら、
最も爽快なカタルシスがそこにあります。

『月の影 影の海』のときも書いたけど、
「小野不由美を信じろ」と言いたいですね。
信じて読み続けろ、と。


陽子が初勅を発表する、エンディング。
もとは普通の女子高生、それも周りの顔色ばかり伺っていて、
おどおどとしていた陽子。

「こんなに立派になって…!」
と涙ぐむ読者も多いはず。

三人の成長の総決算のようなものが、
最後のセリフに込められています。

官吏たちがいくら動揺しようとも、
景麒がいくら止めようとも、
私は陽子の初勅を支持しようと思うし、
きっといい国を作る、と確信しています。



【十二国記マラソン関連記事】


【十二国記マラソン】上巻はかなりツライが小野不由美を信じて読み続けろ!『月の影 影の海』感想


【十二国記マラソン】泰麒の健気な姿にメロメロ…世間に馴染めない人が生きる希望を見つける『風の海 迷宮の岸』感想


【十二国記マラソン】憐れなインフルエンサーとその信者という構図が見ていてツライ…尚隆と延麒の邂逅『東の海神 西の滄海』


【十二国記マラソン】十二国記界のプロジェクトX!使命に邁進する職人たちの物語『丕緒の鳥』