ごきげんよう、えぞしまです。



2019年、『十二国記』の最新刊が発表されるということで、
復習も兼ねて「十二国記マラソン」をやっています。



みなさんもこの機会に、
ぜひ読み直していただきたいところです。


今回の記事は、
延王尚隆と延麒にフィーチャーした『東の海神 西の滄海』をご紹介。
『月の影 影の海』『風の海 迷宮の岸』では、
陽子や泰麒を手助けする頼もしい人物として登場しました。


すでに「成功した大国」、「豊かな国」というイメージのある延国。
そんな延も、スタートアップだったときがありました。





先王の暴虐により、徹底的に荒れ果てた延国。
新王として登極したのは、小松尚隆、胎果の生まれでした。
蓬莱(すなわち日本)では、一国一城の若様だったが、
戦に破れ小松家は滅亡。
民も土地も失くし、あとは命が燃え尽きるだけ…。

そんな尚隆を、延麒は王に選んだのでした。


尚隆が登極して20年ほど経ち、
荒れ果てた国土もいくらか改善し、
少しずつ軌道に乗りつつある延国。

しかし、
元州では不穏な動きが…。


というあらすじ。



なにか大きいことをするときって、
なかなか人をひとつに纏めきれない。
どうしても少数派の意見を丸め込んでしまう。

「ああ~国政だし、なかなか思うように行かないよね~」
「治水工事をしたいのになかなか許可が出ない、腹立つよね~」
と、社会人ならじわじわと実感するもどかしさ…。
元州のトップの息子である斡由に、ちょっと同情してしまいます。

斡由は、めちゃくちゃ優秀であることが伺えます。
民をいつも思い、つねに正義の味方。
実務も卒なくこなす。


だがしかし!
この斡由、とんでもない野郎でした。



そう、優秀過ぎて、
「謝ったら(もしくは誤ったら)死ぬ病」にかかっている!!!!!




「権力とか興味ないし~だから登極とかしなかったよね~」とか言ってたけど、
実はめちゃくちゃ権力に興味あるんだな、これが。
でも登極して、麒麟に選ばれなかったら赤恥だから、登極しない。

負けたら嫌だから、そもそもしない。
「いやだって興味ないし?」とか言って、やらない。
リスクを負うのが苦手なヤツなんです、こいつは。

でも、責任者というのはリスクテイカーだから、
なにか問題が起こったら対処しなくちゃいけない。
そういうとき、どうするか。



他人のせいにする!!!!!(爆



こういう人、現代の蓬莱にもいますね~。
意識高いんだけど、謝らなくて冷笑してばかりなの。

でも、すっっっっげえ仕事できるんだよね。
知恵はあるんだが、性格は悪い、人望も社会性もないという。

斡由の場合、何とかごまかしごまかしやってましたが、
延麒を攫うという大事をしたからにはもう大変。
「麒麟を誘拐」なんてどうみても犯罪なのに、
「僕が間違ってましたぁ~降参!」ができない斡由。

それどころか、
部下に対して「デモデモダッテ」を繰り返す。
人望厚い元州候代理はどこへやら。
延国史には「ただの反逆者」として記されるでしょう。


そんな斡由にも熱い信者がいます。
そう、それは更夜!!!!!

更夜は、親に捨てられて妖魔に育てられたという、
人間社会にも馴染めず、妖魔にもなれない、
哀れな青年です(もののけ姫みたいだ)。

まだ幼かったとき延麒と偶然知り合いになり、
その縁が今回の事件の発端になってしまったのですが…。

更夜は妖魔に育てられ、
人里に入ろうにも気味悪がられます。
そんな更夜を受け入れ、登用してくれたのが斡由。
更夜の育て親である、妖魔のろくたも一緒です。

更夜にとって、斡由は命の恩人。
自分に役割を与えてくれた、いわば神。
「斡由のためなら暗殺もやる!」と完全に信者になってしまいました。

斡由にとって不都合な人物は、
妖魔ろくたにキレイに食べさせちゃう。
でも「殺っときました~」と言ったら、
謝ったら(誤ったら)死ぬ病の斡由が困るので、
「コラッってして、釈放しといたよ~」と超忖度。


更夜は、子どもを捨てたりしないで、豊かに暮らせる国が欲しかっただけ。
その望みを、斡由に託したのです。
そのために、どんなことでもやってきた。
今さら、信者をやめるなんてできなかったでしょう。

「おかしくないか?」「これでいいのか?」
という自分の声を押し込めて、
信者として忖度しまくる更夜。
考えるんじゃない、考えるのをやめるんだ―――!


すべてが終わったとき、
更夜の心には大きな空洞が空いたことでしょう。
「関弓においでよ」という延麒の誘いを断り、
金剛山へろくたと立ち去る更夜。
一人になって、自分を見つめ直す時間が必要ですもんね。


『東の海神 西の滄海』は、
延王尚隆と延麒の話というより、ほぼ更夜の話なんですよね。
信じていたものがダメになるかもしれない、
でもそれを受け入れられない。
この葛藤と残酷な結果を、まざまざと見せつけてくるんです。
自分のサロンが炎上した憐れなインフルエンサーと、それを必死に庇う信者のような…。
やはり、十二国記はキャンディボーイにはキツイ話だ。



尚隆はね、影が薄いというか、ずっとちゃらんぽらんなんだけど、
やっぱり美味しいところを持っていくね(笑)

そして、お互い好きなことを言い合い、
兄弟のような親友のような、
ときにはライバルのような、
尚隆と延麒の絆が光っているんですね。


斡由がクズ野郎であることが判明したこともあって、
二人の絆がめちゃくちゃ爽やかに感じて、尊いんです。


その後の延国がその後どのように発展したか、
それはすでに『月の影 影の海』などで記されています。

誰にとっても、きっと暮らしやすい国になるよ…と、
延麒や更夜に、語りかけたくなります。




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